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ハンコの製造方法と多様化する価値基準

こんにちは。印鑑をデザインするSirusiの盛です。

Sirusiでは、ハンコを「機械彫り」というカテゴリの製造工程で制作しております。お問い合わせいただく際、「手彫り」で作れるのか、「機械彫り」なのかといった疑問が寄せられることがあります。Sirusi製のハンコは全て機械彫りで作成されているのですが、デザイン印鑑を取り扱うには機械彫りでないと製造することができません。そこで今回は、ハンコの製造工程に関わる「手彫り」や「機械彫り」などの製造方法についてのご説明と、マニアックな製造方法による価値基準や多様性の歴史的変遷についてご紹介させていただきます。

ハンコの製造工程がどのように進化し、その製造方法から生み出されるハンコの価値観がどのように変遷してきたかを追いながら、ハンコが持つ多様性や個性の豊かさを深掘りしてまいります。それでは、お楽しみに。

製造工程の解説

まずは、製造工程についての紹介です。ハンコの製造においては、様々な工程が組み合わさります。これらの工程がデザインや品質に直結し、最終的なハンコの特徴を決定します。この製造工程の内容によって、手彫りや機械彫りといった製造方法に区分けされていきます。

準備

はんこ製造の事前準備(道具や材料の手入れ)

製造を始める前にまずは道具と素材の手入れや準備を始めます。道具の準備は、刃物の研磨や手入れ、備品の補充などがあります。材料の準備は彫刻する印材(彫刻前のハンコ材)を平らに水平出しを行います。これを面砥(めんてい)といいます。ここを怠ると、この後の字入れ工程で精度の高い仕事ができなくなるため、非常に重要な工程です。

字入れ

文字やデザインの基礎設計(文字のデザイン、レイアウト)

製造最初の工程は、文字のデザインと配置を決定する「字入れ」です。これはハンコに刻まれる文字やデザインの基本的な骨子を形成する段階であり、ハンコの用途やデザインコンセプトに基づいて慎重に行われます。製作者の知識とアイデアの質と量が試される最初の工程です。

荒彫り

はんこの輪郭を作る(大まかにざっくり彫る)

字入れが終わったら、次は「荒彫り」の工程に進みます。この段階では、文字のない余白部分をゴリゴリと彫り込む作業が行われます。荒彫りにおいては、ハンコの形状が大まかに決まり、文字の配置やバランスが確定していきます。かなり根気と集中力が必要となる工程です。

仕上げ

製作者の腕が光る工程(字入れを基に細かく調整して彫る)

荒彫りが完了したら、「仕上げ」の工程に移ります。この工程では、文字や枠に沿って細かい調整を行いながら、ハンコの細部まで丁寧に彫刻が行われます。製作者の技量とアドリブ力がハンコの最終的な品質に影響を与えます。

調整

機能性と実用性の確保(ハンコの水平出し、枠調整、押印試験)

最後になる「調整」では、ハンコの枠の調整や2度目の水平出し、押印試験などが行われます。押印試験をして、気になる部分には補刀(文字の微調整)を入れます。こうした調整を経てハンコが正確に押印できるようになり、品質のチェックが実施されます。この工程で、ハンコが正確で信頼性の高いものとなるように検証されます。大量生産や安価生産を目的とする場合、省略される工程でもあります。

製造方法の解説

ハンコの製造工程の取り組み方によって、3種の製造方法「手彫り」、「手仕上げ」、「機械彫り」に分類されます。それぞれの区分には特有の特徴が存在し、製品の性質や品質に大きな影響を与えます。

手彫り

匠の技と創造的個性の表現

「手彫り」の製造方法では、製造工程すべてを製作者の手仕事によって行われます。字入れから荒彫り、仕上げまで、全ての工程が手仕事となります。電動工具なども使ってはいけません。高度な知識と技術が要求され、製作者の創造的な感性がハンコに反映されます。筆を使い、鏡に映した文字のように反転させて直接ハンコ材に書き込む字入れ、余白帯を均一に力強く彫り込む荒彫り、そして細部まで手をかけて精密に彫り込む仕上げには、高い次元でまとまった技量が必要です。製造方法の中で最も技量の差がハンコに反映する技法となります。最高位の職人であれば、髪の毛より細い線を彫刻することもできますが、そこに至るには数十年単位の長い年月をかけて研鑽を積む必要があります。

手仕上げ

職人の手による繊細な仕上げ

「手仕上げ」の製造方法では、職人技に関わる工程が手仕事で行われます。一方で、荒彫りにおいて電動工具や彫刻機械を導入することで製作時間を短縮します。文字は手書きあるいは完全オリジナルなデータであることが求められ、仕上げは手仕事で行われます。手仕上げのハンコも、職人としての技術や知識がハンコに反映され、手彫りとは異なるものの、仕上げられたハンコは独自性ある物になります。字入れ、仕上げが手仕事であることから、こちらも技量が問われる製造方法です。

機械彫り

生産と合理化の追求

「機械彫り」の製造方法では、手彫り、手仕上げに該当しない工程全てが機械彫りに区分されます。製造プロセスにおいて、デジタルフォントや見本文字をそのまま活用した字入れを行い、自動彫刻機で荒彫りや仕上げを行う量産を目的とした「機械彫り」もあれば、字入れのデザインを完全オリジナルで行い、彫刻におけるアドリブや偶然から生まれる独創性を捨てる代わりに、設計通りの精密な彫刻をプログラム制御で行う「機械彫り」もあります。そのため、「機械彫り」は多種多様な製造工程が雑多にひとまとめにされた製造方法といえます。三文判から格安ハンコに、書家やデザイナーが制作したディテールに凝ったデザインハンコなど、製品の品質や特徴は様々で、需要や製作目的に応じて最適化されています。これにより、手彫り、手仕上げと異なり、目的に応じて合理的にハンコを製造することが可能です。

製造方法早見表

製造方法の早見表となっています。

字入れ工程 荒彫り工程 仕上げ工程製造方法
A手仕事手仕事手仕事手彫り
B手仕事ペン型または大野木式彫刻機手仕事手仕上げ
C手仕事光電式彫刻機手仕事手仕上げ
Dデジタルフォント光電式彫刻機手仕事機械彫り
Eデジタルフォント自動彫刻機手仕事機械彫り
Fデジタルフォント自動彫刻機自動彫刻機機械彫り
G手書き文字・デザインをスキャン自動彫刻機手仕事手仕上げ
H手書き文字・デザインをスキャン自動彫刻機自動彫刻機機械彫り
Iデジタルフォントを全面加工修正自動彫刻機手仕事手仕上げ
Jデジタルフォントを全面加工修正自動彫刻機自動彫刻機機械彫り
KPC/タブレットでゼロからデザイン自動彫刻機手仕事手仕上げ
LPC/タブレットでゼロからデザイン自動彫刻機自動彫刻機機械彫り
製造工程に関する自主基準を2020年代に合わせて当社で修正加筆しています。

※「手書き文字・デザインをスキャン」、「PC/タブレットでゼロからデザイン」、「デジタルフォントを全面加工修正」は技術、知識が要求されることから半手仕事の扱いとなります。
※ペンシル型または大野木式彫刻機、光電式彫刻機は荒彫りを簡略化するため、機械仕事となります。
※ペンシル型彫刻機とは、電動リューターです。
※大野木式彫刻機とは、固定式の大型電動リューターです。
※光電式彫刻機とは、用紙に書かれた文字を読み取り彫刻する機械です。
※自動彫刻機とは、データを読み込み、プログラム制御で彫刻ができる機械です。

この表から店舗、製作者の出来ることを知ることが可能です。製造方法の区分けは、ハンコの製造プロセスにおけるアプローチや品質の違いが明確になり、ユーザーは自身の要望、要求に応じた最適な店舗、製作者を選択できます。

例えば、できるだけ安価で早くハンコを手に入れたい場合はFの機械彫りをされているお店が最適です。デザイナーや書道家がデザインしたハンコが欲しい場合にはG,H,K,Lあたりの製造方法が可能な店舗、製作者が最適となります。

しかし、デザインとハンコ素材の選択によっては製造方法が絞られてしまうものもあります。例えば、近代素材であるチタンやカーボンなどの材料は機械彫りでないと製造することはできません。これらの素材は非常に頑強であるため、手仕事での仕上げができないので、どうしても機械彫りとなってしまいます。

Sirusiの製造方法

冒頭でお話しましたが、Sirusiのハンコは表における「L」の工程を採用しているので、「機械彫り」に区分されます。採用理由としてはデザインを0から生み出し、設計に沿って精密で正確な線を彫刻するために荒彫りと仕上げを機械化しています。印グラフィーシリーズなどのグラフィカルなデザイン印鑑では、直線や真円を設計通りに手作業で彫刻することは難しく、彫刻はプログラム制御でないと作れません。現代の高い研磨技術で作られる彫刻刃に、プログラム制御で行う精密な彫刻が合わさることで、非常に繊細な仕上がりが可能となってきたため、このようなプロセスを選択しています。また、最後の調整の工程は職人の手で念入りに行っていますので、真円を描いた均一な枠に、ビシっと水平出しされた、押しやすく、使いやすいハンコとなっています。

Sirusiの作る印鑑シリーズ

ご紹介した製造方法で作るSirusiの印鑑シリーズ。製作実績50万本以上のデザイナーを中心としたデザインチームに、経歴20年を超える職人が揃うクラフトチーム、お客様に寄り添うサポートチームが使いやすく確かなハンコを製作します。

製造方法と機能性の評価

ハンコの製造において、機能性はとても重要な課題となります。「手彫り、手仕上げ、機械彫り」といった製造方法は、評価において中心的な要素となっていますが、ハンコとしての機能性も大切なポイントとなります。これらの要素を調和させることが、ユーザーにとって満足度の高い製品を生み出す鍵となります。

製作者の技量が機能性に与える影響

ハンコ製造において、製作者の技量はハンコの機能性に大きな影響を与えます。字入れにしても文字の正しい知識は不可欠で、1つの文字を作るにも様々な書体があり、古代文字である篆書体から隷書体、草書体、行書体、楷書体、古印体と多様です。間違いがあってはいけないので、製作者は字典を持って、知識とアイデアを融合しながら正しい形を作り出します。知識がなければ字画の解釈を取り違えますし、創造的なアレンジも不可能です。彫刻工程である荒彫り、仕上げは正に技量が問われる工程です。最後の調整をとっても、ハンコの水平だし、枠の調整、試し押しと、ここも技術が必要です。特に最後の調整は、どの製造方法を採用しても必ず必要な工程で、ハンコの機能性に影響する重要のポイントとなります。

ハンコの製造法の違いによる機能性と評価

ハンコの製造方法は機能性と評価の付け方に影響を与えます。全製造方法に共通して評価できるのは、道具としての機能性、具体的には押しやすさや使いやすさです。ただし、製造方法によっては価格差が生じ、機能性の解釈も異なります。

「手彫り」では、全ての工程を職人が行い、鮮明な捺印で、人の手ならではの繊細で美しい印影が表現されている完璧な作品であること。「手仕上げ」では、主要な工程を職人が行いますので、こちらも鮮明な捺印と美しい印影が表現されている実用的な道具であることが機能性と評価に繋がります。

「機械彫り」は、特性によって機能性も評価も一遍します。デザイナーや書家が作るデザインのハンコとなると、鮮明な捺印で、製作者の世界観が表現された個性的な印影、また実用的な道具であることが機能性と評価に繋がります。一方で、格安ハンコとなると、機能性ではなく利便性が評価され、手元に早く届き、使用できることが評価に繋がります。ここまでが製造方法による違いについての説明となります。

価値基準と製造方法の変遷

ここからは、昭和以降のハンコの価値基準とその変遷について、製作者目線でちょっとマニアックに説明していきます。ハンコの製造における価値基準は、時代や技術の進化、そして製作者のアプローチの変化に伴って変遷しています。特に手彫り、手仕上げ、機械彫りの3つのカテゴリにおいて、価値基準がどのように変わってきたかを見ていきましょう。

手彫り>手仕上げ>機械彫りの価値基準

ハンコの製造において、手彫りが最も高い価値を持ち、手仕上げ、機械彫りの順に評価される傾向があります。手彫りが盛んであった昭和の時代においては、製作者が自身の技術と感性を活かし、一つ一つのハンコに個性を刻み込むことが重視され、実用性に創作的な価値が含まれました。手仕上げも主だった工程が手作業であることから、押印すると手彫りに近い印影となります。また製作時間の短縮が可能であるため、手彫りよりも価格的に手に取りやすくなります。しかし、電動工具や彫刻機械を使うことから作品としての価値が損なわれることとなります。この頃の機械彫りは量産を目的とし、生産性を高めることを第一としていました。けして彫刻の精度は高いものとは言えず、手仕上げや手彫りに比べ、精度は悪いが効率的な量産で、実用であることだけを重視したドライな物となります。しかし、手軽な価格帯で提供できるため、需要は高まっていきました。

製作者のアプローチの変化

1980年代から1990年代にかけて、量産に特化した販売店が登場し、実用性を求めるユーザーの需要に応じたハンコを提供するようになりました。これにより、手彫りにこだわる製作者と、手仕上げや機械彫りによって製造を合理化する製作者のアプローチが混在するようになりました。とはいえ、製作者はそれぞれの目的に適した製造方法を扱うものの、「手彫り」を最高とする価値観を変わらず根底に持っていました。

1990年代から2000年代の変革

1990年代から2000年代にかけて、多くの消費者は手軽で安価に手に入る製品を求めるようになりました。この背景にはインターネットの普及も進み、ネットショップや楽天やAmazonといったモール店での販売店も多く現れ、手軽に買える場所が拡がったこともあります。この傾向に伴い、機械彫りによる大量生産や、製造工程の省略が進み、三文判や格安ハンコが急速に普及しました。そして、価値基準は変わることもなく、製造工程の公表は任意であったことから、公表をしない製造方法不明の販売店も拡大していきました。

製作者の問題と基準の策定

こうした変遷に伴い、製作者は様々な製造工程のアプローチを採用する中で、製造方法の透明性や品質の評価に課題を抱え、一部の製作者側の倫理観による問題も表面化しました。当時、製造方法が何れに該当するかは製作者側の自主規準に委ねられ、公表についても任意であったことから、電動工具と手仕事を使い分け、工程を合理化したけど「手彫り」とする製作者。または、機械で彫刻し、最後の調整に少しだけに仕上げ刀(彫刻刀)を使うことで「手仕上げ」する製作者。こういった製作者が販売するハンコについて、消費者は正しい判断ができないという問題が発生します。この問題を解決するため、2002年に全日本印章業組合連合会(現・公益社団法人 全日本印章業協会)が公正取引委員会に対して製造工程に関する自主基準を提出し、透明性を向上させる取り組みが始まりました。製造工程に関する自主基準は、消費者に誤解を与えず、適切な選択ができるようにする重要な指針となります。 これを厳格化することは適いませんでしたが、この基準を基に消費者に正しい情報を伝えようとする流れが生まれることとなりました。

字入れ工程 荒彫り工程 仕上げ工程製造方法
A手しごと手しごと手しごと手彫り
B手しごとペンシル型または大野木式彫刻機手しごと手仕上げ
C手しごと光電式彫刻機手しごと手仕上げ
Dコンピュータ書体コンピュータ連動タイプ光電式彫刻機手しごと機械彫り
Eコンピュータ書体ロボット彫刻機手しごと機械彫り
Fコンピュータ書体ロボット彫刻機ロボット彫刻機機械彫り
G手書き文字をスキャニングロボット彫刻機手しごと手仕上げ
Hコンピュータ書体を全面加工修正ロボット彫刻機手しごと手仕上げ
Iコンピュータ書体を全面加工修正ロボット彫刻機ロボット彫刻機機械彫り
2002年(平成14年)、 全日本印章業組合連合会が、公正取引委員会に提出した自主基準をベースに作成された表

※コンピュータ書体とは、デジタル端末に表示されるフォント、またはそれに分類されるガイド文字を指します。
※ロボット彫刻機とは、 データを読み込み、 プログラム制御で彫刻ができる機械です。

価値観の多様性

2010年代から現代おいて、多様性が拡がり、個性あるアイテムが評価される時代となってきました。ハンコに関しても同様で、価値観が多様化してきました。伝統的な手彫りハンコ、グラフィカルでモダンなデザインのハンコ、自ら書いた手書き文字で作るハンコなど、幅広いジャンルのハンコが存在します。それぞれの価値観を持つ消費者が求めるものに合わせ、選べることが重要となりました。ハンコの製造においては、価値基準が変遷し、実用的であり創造的な価値を持つ「手彫り」、手彫りのような仕上がりで実用的である「手仕上げ」、大量生産に安価生産から、精密なディテールのデザイン印鑑と、幅広く多様な目的に最適化できる「機械彫り」、求められる価値観に合わせて製造方法を使い分けられることは、多様性を受け入れ、ハンコを発展させていくことに繋がっていきます。

まとめ

ハンコの製造方法とその価値基準の変遷に迫りながら、手彫り、手仕上げ、機械彫りといった異なる製造方法が持つ独自の魅力や影響に焦点を当て紹介させていただきました。

  • 匠の技と創造的個性の「手彫り」
  • 職人の手による繊細な「手仕上げ」
  • 生産と合理化の追求した「機械彫り」

製造方法ごとの価値基準の変遷を振り返った中で、あなたが必要とするハンコを探すお手伝いができていれば嬉しく思います。

最後までお読みいただき、ありがとうございました。

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